日本人の魚離れが進んでいるのではなく、日本から魚が離れていっている

「勝川さんの本を読んでまず驚いたのが、日本人が今のように本格的に魚を食べ始めたのが、太平洋戦争後であるということでした。日本人は昔からたくさん魚を食べていたイメージがあったのですが。」

「たとえばお年寄りに聞いてみると、そんなに昔から魚を食べていなかったという話がでてきます。よく考えてみると、冷蔵庫がない時代に、農村部で魚を日常的に食べている訳がないですよね。今みたいに日本全国で魚を日常的に食べられるようになったのは、冷蔵庫の普及と歩調を合わせているんです。我々の記憶では昔から食べていたような気がするかもしれないけれど、統計を見てみると、そうではない。明治、大正の人達は、そんなに魚を食べていなくて、お正月にタイを食べるとか、そういうレベルでした。」

「確かに冷蔵庫がなければ、生の魚は運べませんね。当たり前のことなのに、理解していませんでした。」

「もちろん漁村地域には魚を食べる伝統はありましたけれど、日本全国津々浦々というものではなかったんです。それが戦後の食糧難で、動物性たんぱく質の不足を補うために、国策として漁業であったり捕鯨であったりといったことが勧められて、戦後の人達に急速に広まったという流れがあります。」

「もっと魚を食べましょうという話をよく聞きますが、こんなに魚を食べるようになったのは最近の話なんですね。」

「そして乱獲の結果、漁獲量が急激に減っているのを、今は輸入で賄っている状態です。日本人が魚離れをする以前に、魚が日本の海からいなくなっています。」

sakana_banare4.png
魚介類の国内生産と輸入量のグラフ。国内生産の落ち込みを輸入で支えている状況。『「魚離れ」という嘘』より抜粋。

「昔と比べると、水産資源が減ってしまっています。そうすると漁獲量が落ちるだけではなく、以前は水揚げしていなかったような小さいもの(未成魚)まで獲っちゃうようになるんです。小さいものは大きいものに比べれば二束三文ですが、ゼロよりはいいだろうと、みんなで獲ってしまう。そうすると、当然価値が高い大きな魚はもっと減っていきますよね。そして卵を産む成魚も減ります。」

「大きな魚を獲ろうとしたら、小さい魚も獲れてしまったので、それを有効利用しようというのなら話はわかりますが、大きな魚が獲れないからといって、小さい魚を狙って獲ろうとすることがダメだというのは、素人でもわかります。」

「水産資源を獲ること自体が良いか悪いかではなく、その資源を十分な親を残して、持続的な状態で、かつ価値が高いタイミングで獲る。それがポイントなんですね。今の漁業は、自分の未来を食いつぶしているようなものです。魚が減っていることは事実なんです。地球の温暖化やクジラが悪者にされるんだけれど、それだけじゃない。やっぱり漁業の責任も大きいんだと自覚しなければならない。」

「日本の漁業の悪い例として、サバの乱獲が本に書かれていました。マグロが減っているというのはよく聞きますが、サバならまだまだ日本の海にもいっぱいいるイメージなのですが。」

「サバは資源量をみてみると、ものすごく低いんですよ。なぜなら大半を0歳、1歳という未成魚の段階で獲っちゃうんですね。サバがまだ多いというのは、まったくおかしな認識だと思います。なぜそう思うんですか?」

「ええと、大衆魚というイメージと、魚屋にいけば必ず並んでいるからです。」

「でもよく見てみると、ノルウェーのサバだったり、ゴマサバだったりしませんか。型がいい食用サイズのマサバは、今や高級魚といってもいい値段です。干物などの加工屋だって、今は日本のマサバが安定的に入手ができないから、ノルウェーまでわざわざ買いに行かなくてはいけなくなったという歴史があるんです。」

sakana_IMG_1472.jpg
確かに魚売り場をよく見てみると、ほとんどがノルウェーなどからの輸入品でした。

「そうはいっても、一人の漁師がサバを獲るのを我慢したところで、その漁師が数年後に大きなサバを獲れるようになるかというと、ならないんですよね。これが農業だったら、大きくなってから収穫すればいいだけの話ですが。」

「日本の沿岸には小さな漁業組合が山のようにあり、それぞれの漁場を持っている。その漁場の中は好きにしていいですよっていう話なのですが、魚は当然動きますから、自分の漁場の中だけでどれだけ魚を守ろうとしても、魚が漁場の外に出たら誰かに獲られてしまうかもしれないし、戻ってくる保障もない。だから個人で漁獲規制をしろといっても、無理なのです。今の枠組みで合理的に利用できるのは、狭い漁場の中で動かないもの。たとえばアワビやウニのように、移動せず、顔が見える範囲で利用している資源は管理できる。しかし、移動をする大規模な資源は、構造的に無理なのです。」

「一人の漁師や一つの漁協が漁獲規制をしても、隣の漁師や漁協が喜ぶだけでは、誰もやらないですよね。」

「漁獲の大半は、移動性の大規模資源が占めている。たとえばクロマグロにしても、北海道から沖縄まで、全国の漁師がいろいろな漁法で好きに獲っているわけです。クロマグロが減ったから漁獲規制を漁業者主体でやるのは無理です。皆で集まって話し合う場すらないのだから。それなのに漁業者の意識が高いから何とかなるなんて、そんな馬鹿な話はないです。漁師は明日どうなるかわからないから、親の仇と魚は見たら獲れとかいう風になっているのだけれど、それは今のような早い者勝ちの漁業制度である限り、当然です。日本の漁業者は意識が低いから乱獲する訳でもなくて、乱獲せざるを得ないような制度の元で漁業をしているから、乱獲をしちゃうんです。」

「ようやくこの問題の本質がわかってきた気がします。」

「完全に制度の欠陥が原因であって、乱獲しないで大きくなってからちゃんと獲れるような仕組みに変えていけば、漁業者にとっても、消費者にとっても、将来にとって大きな利益を生む訳です。それのために、どの様な制度を導入すればいいのかっていうのを議論していかなければならない。」

1 2 3 4

ピックアップ

tandoor08

楽しい!おいしい!ケータイタンドールの魅力
ケータイタンドールと名付けた調理器具。魚も肉もジューシーに焼き上がるそう!

コメント

  1. 顔本とツイッターで紹介させて頂きました。漁業資源に関して常々私が思っていた事です。記事にして下さってありがとうございます。本当にこれに関しては、日本人は自分で自分の首を絞めている様にしか見えません。
    秋田の鰰(ハタハタ)で出来た事なんですから、他の魚で出来ない訳がないんです!
    今回の鰻にしても、以前のマグロにしてもそうですが、マスコミの「規制のせいで食べられなくなる!」一辺倒の狭く浅〜〜〜い見地と、問題の根底にある「何故」を問わない姿勢に心底腹が立っていました。世界でも有数の島国で、排他的経済水域も確か世界5位か6位の広さを持つのに「海からの視点」が足りなすぎです。
    ついでに言うなら、これは単に水産資源の問題だけではなく、日本の国際的な信用にも関わってくる問題です。自滅が明らかな自国の漁業を統制出来ず、当然の結果として、他国にも迷惑かける様な国が国際社会で信用されるかってんです。私はグリンピースが大嫌いで、環境NGOも大半が話の通じないクレーマーで、シーシェパードは全員泥舟に乗って北極海に沈めば良いと思っていますが、これでは捕鯨に関して日本の主張が認められなくて当然です。いくら文化だ、調査だ、頭数は管理している、資源量は回復している、と言ったって(そしてそれがどんだけ正しくても)「ふ〜ん、で、鰻は?マグロは?鯖は?蟹は?」と鼻で笑われて終わりです。
    本来であれば日本が旗ふり役となって東南アジアの水産資源管理の枠組みを作るべきなんです。遺伝子資源に関してはちゃんとやってんだから水産資源でもやれんだろっっ!!!

  2. ところで、昭和63年から平成2年にかけて国内生産が激減していますが、一体何があったんですか?

  3. こういうエモーショナルなお話では、みんな知らんぷり決め込むか、
    口先では反発をする人が大半で、文化論に歩調を合わせられて
    弾かれるのがオチではないでしょうかねぇ。
    やるせないからエモーショナルになっちゃうんでしょうけど。
    読んで釈然としなかったのは、乱獲の要因を漁民や漁連に求めているところ。
    まあそれもあるのでしょうけども、沢山獲るのはやはり需要があるからであって、
    その需要の源はなんやねんという話になると、消費者というよりは、消費者を
    目当てとした各種小売業者にあるのでは、と思うんですよね。
    スーパーの新店が出来れば当然売り物は確保せねばならないわけで、魚もっと
    寄越せ~になるでしょう。新鮮(そう)な魚が沢山あれば、店の見栄えもいい
    でしょうしww 安売り回転寿司もそんな一角でしょうか。
    このへんは多分に日本独特な事情だと思います。
    私の最寄り駅にも最近できた24時間スーパーがありますが、さきほど22:00
    くらいに寄っても、魚が結構売れ残ってました。
    でも店全体の仕入原価を全体の売上が上回れば、魚が何匹売れ残って廃棄され
    ようが、知るかボケって話ですよね!
    魚を沢山置けて品揃えの良い新鮮な店と思ってもらえれば、売残り上等みたい感じ
    ではないかな~と。
    我々が食いつくす以前の、オーバーストアなどの流通上の問題の方が重い気が
    するんですけどね~。我々がたべるからオーバーストアなんでしょうか。

  4. 外食産業に従事する底辺・低賃金店員です。心が痛む記事です。
    我々がお客様に提供する低価格の魚料理。魚に限らず、他の食材も。
    鰻は、冷凍で入荷します。串刺しの状態で、温めればすぐ食べられるようになっています。どこから来ているのか、スタッフは気にしません。お客様も、原産国をお尋ねになるかたは皆無です。激安ですから。
    食文化は国の根幹であるはずですが、エンドユーザーに知らされないことが多過ぎること、知らされれば我々外食産業が生き残れないこと、何もかもが歪んでいます。自分が生きていくために、三猿になっている毎日です。
    良い記事をありがとうございます。

  5. いま水産庁がファストフィッシュ運動やってますよね。食育とかそういうのも絡んでいます。魚食って政治的保守層のスローガンなんですよね。
    そのへんまでつっこんでいただけるとホンモノかなと存じます。
    Fast Fish(ファストフィッシュ)とは手軽・気軽においしく、水産物を食べること及びそれを可能にする商品や食べ方のことで、今後普及の可能性を有し、水産物の消費拡大に資するものです。 (水産庁)

  6. このような状況になっているとは、全く知りませんでした。。。
    勉強になりました。
    ありがとうございます。

このページの先頭へ