環境保護団体が果たした役割

「漁獲量規制導入の力になったという、環境保護団体の役割を教えてください。」

「日本の中で科学的な政策議論をできる人はほとんどいないですよね。いたとしても、国の審議会とか、国家権力のサイドに入ってしまっているから、在野に突っ込みをいれられる人がいない訳です。だから専門知識を持っていて、かつ権力とは独立した人達が必要なんです。医者に行って、この診断はどうなのかなって思ったら、セカンドオピニオンを受けますよね。そのための医者を自前で賄っているのが環境保護団体。環境保護団体は民間資金でやっていますから、権力から独立している。そういうものを民間で支えなければいけないよねっていうカルチャーが海外にはあります。民間資金を得るためにセンセーショナリズムに走りやすいという問題点があるんですけれど。」

「環境保護団体っていうと、クジラやイルカを守っている過激な団体をイメージしてしまい、どうも協力する気にならないのですが、サバを守っている団体もあるのですか。」

「実際、海外でもそうだったんですよ。でもここ10年、20年くらいで、一部の団体の中には、漁業を全否定していても仕方がないから、漁業の中でも持続的なものを応援していこうという動きが出てきました。消費者から見たら、どの魚が持続的な漁業で獲られたかなんてわからないじゃないですか。値段だけみたら、持続性なんて無視して獲った魚の方が安いですよね。でもそれじゃダメだから、ちゃんと消費者の消費段階で見分けがつくようにしようと、MSC(Marine Stewardship Council = 持続可能な漁業で獲られた認証水産物)のエコラベルというものが世界的に普及してきました。海外では、小売り段階でMSCのエコラベルが付いていない魚は扱いませんよっていう方針を出しているところも多いです。」

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エコラベルを認証している Marine Stewardship Council(海洋管理協議会)

「そのエコラベルというのは、日本でも導入されているのでしょうか。」

「イオンがだいぶ前からMSCを入れていますが、顧客認知度が非常に低く、このラベルに対してプレミアムがとれるような状況ではありません。水産資源の持続性の問題っていうのが、消費者にも責任があるという意識がないじゃないですか。消費者サイドで持続的な水産物とそうでないものを見分けたいっていう需要がないから、エコラベルを張っても無駄なんです。消費者が、この問題を考えなきゃいけないなと思って、じゃあどうやって見分ければいいのっていうことになれば、エコラベルは一つのツールになるんです。」

消費者も健全な外圧になろう!

「日本では環境保護団体の力が弱いとはいえ、資源管理による成功例が海外にあるのに、それでもやらない理由はなんなのでしょう。」

「水産庁は、日本は漁業者が自主的にうまく規制しているから必要ないといっています。サバはほとんど未成魚で獲っちゃっているのだから、自主規制が機能していないのは明白です。でも、日本は漁業者の意識が高いから海外と違って乱獲の問題はないですよっていったら、一般の人はだませちゃうじゃないですか。それで、だまされちゃうからダメなんです。」

「今まで消費者をだませてきたから、今後も漁獲規制なんてやらなくても問題にならないだろうと。」

「水産庁は漁獲規制ができない理由ばかりを並べるけれど、世界的に見てこんなに恵まれている国は他にありません。人件費の高いノルウェーで、わざわざ運賃掛けてサバを日本に運んでも、十分儲かっています。こんないい市場が自国にありながら、自国のサバは養殖魚のエサにしかならないサイズで獲ってしまう。こんなバカな話はないでしょう。」

「私もできれば国産のサバが食べたいです。」

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旬の太った日本のサバは、抜群にうまいのにね。

「いい状態のサバを安定的に水揚げできる制度に切り替えれば、日本の漁業は何倍も儲かります。やらない言い訳を並べるんじゃなくて、できるところからやっていこうよって、なんでならないんですかね。」

「...なんでですかね。」

「やっぱり最終的には外圧が無いからなんですよ。水産庁の中にも問題意識を持っている人は実際います。でも水産業界は反対、政治家も地元の漁業者から陳情されて反対、役所全体としてはハードルが高いからやりたくない。そういう状態で、規制を導入するのは無理だと思います。そういう人達が動けるような状況っていうのを、世論が後押ししないといけないですよね。」

「世論が変われば、漁業の在り方も変わりますか。」

「未来の食卓から魚を奪って安く食いつくそうと思っている日本人なんていないと思います。でも結果的にやっているのはそういうことなんです。自分たちが何をやっているかという自覚を持ってもらえれば、必ず変われると思うんです。消費者が、魚を持続的に獲ってくれ、そういう魚だったらちゃんと買うよ、という風に意識を変えていけば、漁業は変われるんですよ。逆に、外圧がない状態で、業界が自己改革するのはちょっと無理かなと。急がば回れじゃないけれど、地道に消費者教育していくしかないのかなと思っています。」

「今日一日でだいぶ教育していただいた気分です。」

「ここで一番がんばらなければならないのが、我々研究者だと思うんですね。日本の漁業制度のどこが間違っていて、こういう風にしたらこんなに良くなるよっていうのは、我々専門家がきちんと言うべきじゃないですか。それをやらないのだったら、なんのために水産学があるのか。業界や水産庁から嫌がられても、やっぱりそこは言わなくてはならない。言えないんだったら、実学としての存在価値がないと思います。」

どうでしょう、これを読んで胃がキリキリしたり、胸がムカムカしたでしょうか。私はこの記事を書いていて、またキリキリしてきました。勝川さんの本には、今回のインタビューで伺った話以外にも、様々な漁業に関する問題点、そしてそれに対する改善案が書かれています。現場の漁師の目線からではなく、水産学者による漁業を俯瞰した目線での問題提起です。抱卵したクロマグロを獲る話とか、かなりひどいことになっています。

私個人としては、まずはスーパーや魚屋で購入する魚を選ぶ際に、水産資源の持続性を少しでも考えて買うということを、とりあえず始めてみようと思います。あとウナギ釣りにおける自分に対する個別漁獲枠の設定。

あまり自分の書いた記事に対して拡散希望とか書きたくないのだけれど、今回に関しては、よろしければ拡散していただければ幸いです。

【参考サイト】
勝川俊雄 公式サイト

【関連記事】
漁業は三陸から生まれ変わるのか 勝川俊雄さんインタビュー2
日本の漁業を知るために「第1回 資源管理のあり方検討会」を傍聴してきた
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コメント

  1. 顔本とツイッターで紹介させて頂きました。漁業資源に関して常々私が思っていた事です。記事にして下さってありがとうございます。本当にこれに関しては、日本人は自分で自分の首を絞めている様にしか見えません。
    秋田の鰰(ハタハタ)で出来た事なんですから、他の魚で出来ない訳がないんです!
    今回の鰻にしても、以前のマグロにしてもそうですが、マスコミの「規制のせいで食べられなくなる!」一辺倒の狭く浅〜〜〜い見地と、問題の根底にある「何故」を問わない姿勢に心底腹が立っていました。世界でも有数の島国で、排他的経済水域も確か世界5位か6位の広さを持つのに「海からの視点」が足りなすぎです。
    ついでに言うなら、これは単に水産資源の問題だけではなく、日本の国際的な信用にも関わってくる問題です。自滅が明らかな自国の漁業を統制出来ず、当然の結果として、他国にも迷惑かける様な国が国際社会で信用されるかってんです。私はグリンピースが大嫌いで、環境NGOも大半が話の通じないクレーマーで、シーシェパードは全員泥舟に乗って北極海に沈めば良いと思っていますが、これでは捕鯨に関して日本の主張が認められなくて当然です。いくら文化だ、調査だ、頭数は管理している、資源量は回復している、と言ったって(そしてそれがどんだけ正しくても)「ふ〜ん、で、鰻は?マグロは?鯖は?蟹は?」と鼻で笑われて終わりです。
    本来であれば日本が旗ふり役となって東南アジアの水産資源管理の枠組みを作るべきなんです。遺伝子資源に関してはちゃんとやってんだから水産資源でもやれんだろっっ!!!

  2. ところで、昭和63年から平成2年にかけて国内生産が激減していますが、一体何があったんですか?

  3. こういうエモーショナルなお話では、みんな知らんぷり決め込むか、
    口先では反発をする人が大半で、文化論に歩調を合わせられて
    弾かれるのがオチではないでしょうかねぇ。
    やるせないからエモーショナルになっちゃうんでしょうけど。
    読んで釈然としなかったのは、乱獲の要因を漁民や漁連に求めているところ。
    まあそれもあるのでしょうけども、沢山獲るのはやはり需要があるからであって、
    その需要の源はなんやねんという話になると、消費者というよりは、消費者を
    目当てとした各種小売業者にあるのでは、と思うんですよね。
    スーパーの新店が出来れば当然売り物は確保せねばならないわけで、魚もっと
    寄越せ~になるでしょう。新鮮(そう)な魚が沢山あれば、店の見栄えもいい
    でしょうしww 安売り回転寿司もそんな一角でしょうか。
    このへんは多分に日本独特な事情だと思います。
    私の最寄り駅にも最近できた24時間スーパーがありますが、さきほど22:00
    くらいに寄っても、魚が結構売れ残ってました。
    でも店全体の仕入原価を全体の売上が上回れば、魚が何匹売れ残って廃棄され
    ようが、知るかボケって話ですよね!
    魚を沢山置けて品揃えの良い新鮮な店と思ってもらえれば、売残り上等みたい感じ
    ではないかな~と。
    我々が食いつくす以前の、オーバーストアなどの流通上の問題の方が重い気が
    するんですけどね~。我々がたべるからオーバーストアなんでしょうか。

  4. 外食産業に従事する底辺・低賃金店員です。心が痛む記事です。
    我々がお客様に提供する低価格の魚料理。魚に限らず、他の食材も。
    鰻は、冷凍で入荷します。串刺しの状態で、温めればすぐ食べられるようになっています。どこから来ているのか、スタッフは気にしません。お客様も、原産国をお尋ねになるかたは皆無です。激安ですから。
    食文化は国の根幹であるはずですが、エンドユーザーに知らされないことが多過ぎること、知らされれば我々外食産業が生き残れないこと、何もかもが歪んでいます。自分が生きていくために、三猿になっている毎日です。
    良い記事をありがとうございます。

  5. いま水産庁がファストフィッシュ運動やってますよね。食育とかそういうのも絡んでいます。魚食って政治的保守層のスローガンなんですよね。
    そのへんまでつっこんでいただけるとホンモノかなと存じます。
    Fast Fish(ファストフィッシュ)とは手軽・気軽においしく、水産物を食べること及びそれを可能にする商品や食べ方のことで、今後普及の可能性を有し、水産物の消費拡大に資するものです。 (水産庁)

  6. このような状況になっているとは、全く知りませんでした。。。
    勉強になりました。
    ありがとうございます。

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