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カレーを調理する大鍋(映画「聖者たちの食卓」から)

この秋、「聖者たちの食卓」というドキュメンタリー映画が公開される。約600年間、毎日10万食ものカレーを無料で(!)提供しているインドの食堂が題材だ。そういう場所があること自体が驚きだが、映画を通して何を伝えたいと思ったのかを、監督に聞いてみた。

誰もが同じ場所に座って食べる

1日10万食。しかも期間限定ではなく、それを600年も続けているという無料食堂は、インド北西部に位置するパンジャブ州の都市、アムリトサルにある。

シク教の総本山「ハリマンディル・サーヒブ」(黄金寺院)では、「人種や宗教、身分などにかかわらず、全ての人は平等である」という教えを実践するために「グル・カ・ランガル」(=無料食堂)を運営。食堂は一度に5千人が入ることができる。利用者は入り口で靴を預けて足を清め、頭にターバンもしくはタオルを巻くのがここのマナーだ。床に整列して座ると、1枚ずつ渡されたプレートにチャパティ(薄焼きのパン)や豆カレーなどが配られる。

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「ハリマンディル・サーヒブ」(黄金寺院)。光り輝いています

1日に使われる食材は小麦2.3トン、豆830キロをはじめ膨大なもの。消費される燃料もガスボンベが同100本、薪5トンとこれまた大変な量だ。カレーは人の背丈ほどもある巨大な大鍋で調理。仕込みや配膳、後片づけなど、ほとんどの作業を約300人のボランティアがほぼ手作業で行っているという。

以下は、映画を撮影した監督の一人で、料理人でもあるフィリップ・ウィチュス監督へのインタビューである。ウィチュスさんは8月25日から27日まで日本に滞在した。

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フィリップ・ウィチュス監督

――無料食堂では、本当に毎日10万食を作っているんですか? しかも手作業で?

本当です。しかもシク教では重要なグル(導師)の誕生日に祭を行っていて、それが年に10日ほどあるのですが、その時には普段の3倍、30万食が出ることもあります。

――毎日無料で食べられるなら、それを目当てに黄金寺院の周辺に住み着いてしまう人もたくさんいるのではないか、と思ったのですが。

はい、実際にいます。ボランティアスタッフの中には、毎日のように食堂に通い詰める「常連さん」の中から採用された人もいます。食堂には人種や宗教、貧富の差を問わずに色々な人がやってきますが、その中には日々の食事に事欠くような貧しい人もいて、ここで食べたり働いたりしている内に生活が改善することもあります。キッチンを含めた食堂自体が独立した小さな社会を形作り、何百年も続く中で「福祉事業」的な側面をも持つようになった、といえるでしょう。

ちなみに調理は300人のボランティアがほぼ手作業で行っていますが、そこでは一人ひとりの生産性が余り問われないのが面白いところです。映像にも、豆から殻を取ったり、ニンニクの皮をむいたりしている人が登場しますが、非常にゆっくり、のんびりと作業している。料理人の視点からすると「それでいいのか」とも思いますが、しかしそれでも全体で見るとちゃんと運営が回っているのです。

――無料食堂を映画の題材にしたのはなぜですか。

無料食堂はシク教のグルであるナーナクが始めたと言われています。物乞いも金持ちも同じ床に座って食べる。ナーナクは相手がインドの王様であっても、同じようにすることを求めたそうです。しかし映画そのものに、特別の意図はありません。無料食堂で日々繰り返されている、誰もが同じ場所で座って食べているという事実を、善悪の価値判断を抜きに伝えたかった。だから作品ではナレーションや効果音、BGMを一切使っていません。

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